2021年12月27日月曜日

180年前のハンマーフェルト

 

今修復しているピアノは、依頼主のご意向により、180年前のオリジナルハンマーフェルトをそのまま活かして修復を試みています。
最初は私も、見たところ良い状態なので難なくやれると思ったのですが、実際には多くの苦労がありました。
ばらつきもありますし、ニカワの剥がれも多く一つ一つ貼り直しをしましたが、手作業でやるのでこれで本当に大丈夫なのかなあ?という疑問が付きまといました。
ハンマーの巻きのテンションは低く、これで音が出るのかなあ、古くなって緩んできてもう力がないのではないかなあ、と心配でした。
ハンマーウッドもシャンクも脆く、修理をしようとしているのに壊してしまい、また修理、と次から次へと細かい作業が続きました。
本当にこれで良かったのだろうか、オリジナルにこだわらず新しく作り替えた方が良かったのではないか、と自問自答の日々でした。
しかし、ようやくさまざまな調整が整い始め、本来の音色が出始めた今日、その意味がすっと天から降りてきた、その感動と喜びは、どう言い表したら良いのかわかりません。
とにかくその音色は心地よく、聴いているのが幸せで、それだけで全ての苦労が報われ、他に多くの欠点があろうと構わないと思わせるような、そんな音色でした。

ピアノの音色というのは、一つの要素で決まるのではなく、ハンマーフェルト、弦、アクション、響板、ケース、その他を総合して出来るものなので、ハンマーフェルト一つの要素だけで語ることはできません。
しかしその中で大きな要素であることには間違いないハンマーフェルトの影響力は多大です。

すごい音に出逢っちゃったな、という感じがしています。
しかもその音を出すのは、180年前のフェルト、180年前の羊の毛なのです。
それが今も生きて、こんなにも美しくパワフルな音を出しているということは、なんと感動的なことではありませんか。

サステナーブルが尊重される今、生かそうと思えば生かせるものは実はたくさん存在していて、しかも現代の私たちに大きな感動と学びを与えてくれる素晴らしいものだということに気づきます。
先人は、確かに私たちに多くのメッセージを送り続けてくれていると感じています。

明日も、調整が続きます。
常に欠点があり完璧はあり得ない古いピアノの修復ですが、メカニック的にもっと完璧に近い現代のピアノにはない、何かの真実が、確かにそこにはあります。

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