2019年2月19日火曜日

1908年製エラール 平行弦グランド 修復を終えて 







1908年製ERARD  平行弦グランド 1m85
一台の個性的なピアノが仕上がりました。
平行弦らしいピュアな音色とフランス語のような鼻にかかった発音が特長です。
私の個人的な印象ですが、このピアノは歌を知っている、と感じています。
初めて音を出した時、その美しい音色にも感動しましたが、あまりに良く歌うピアノなのでびっくりしました。
演奏者が特に一生懸命歌おうとしなくても、ピアノが歌ってくれます。
何なんだろうこれは?というのが最初の感想でした。
その理由は良く分かりません。
伝統あるエラールが追求し作り上げた結果なのか、ピアノが豊かな人生を送ってきて到達したものなのか・・・。
全く時代は違うのですが、ショパンが言った言葉を思い出しました。
「元気のない時にはエラールを弾く」
というのは、エラールはどう弾いても美しい音色が出るからだそうです。
ショパンの時代から、エラールは叩いても打っても、指先の神経を尖らせなくても、いつでも同じように美しい音色で歌える、豊かな響きに満ちた楽器でした。
このピアノはショパン時代からさらに60年ほど後のもので構造も変化していますが、伝統の流れを汲み、同じ性質を持っているのかもしれません。
安定した美しい音色と響きの中に私たちを包み込んでくれ、そして自ら歌って導いてくれるピアノです。

修復中、ずっと気になっていたことがありました。
このピアノの前の所有者は、仲俣申喜男さんという現代作曲家の方でした。
ご病気のためご入院され、ピアノをお売りになりました。
ピアノを観にお宅へ伺った時、すでに何年も閉め切りだったそうでピアノはカビだらけでうまく機能しませんでした。
このピアノは、仲俣さんがパリで見つけて持ち帰られたものだとお聞きしました。
ピアノの周りには、たくさんの楽譜、レコード、蔵書などが所狭しと置かれていて、ここで集中して作曲活動をされていたのだろう、と生々しく感じられました。
残念ながらご本人との面談はかないませんでしたのでお会いしていませんが、真摯な一人の芸術家の人生に思いをめぐらせずにはいられませんでした。

一体どんな曲を作られていたのだろう、と情報を探しました。
ピアノ曲がありました。「夜の鳥」というタイトルでした。
きっとこのピアノで作曲されたのだろうな、と思ったので、楽譜を探して弾いてみたいと思いました。
そして国際芸術連盟から楽譜を購入することができました。
しかし、私などには全く歯が立たない難しい現代曲で、1ページどころか、1段目だけでさえも弾くことができません。
録音を探しましたが、全く見つかりません。
音を追っていくと、美しい曲なのだろうということだけは想像できたのですが、これはいくら頑張っても自分には1ページも弾けないと思い、ピアニストの方にご相談したところ、挑戦してくださる方が見つかりました。
3月に録音を予定していますので、ぜひ皆様にも聴いていただきたいと思っています。

仲俣氏は、メシアンにも師事されたご経歴を持ち、ご自身も野鳥の研究を熱心にされながら、鳥を作曲活動の中心テーマとされていたようです。
偶然のことながら、野鳥の飛び交う森の中にある私の工房で氏のピアノが修復され、「夜の鳥」を奏でることができる運びになり、不思議なご縁を感じております。

「エラールピアノ」や「夜の鳥」という歴史的音楽遺産が今後も受け継がれ、私たちのみならず後世の人々にも学びや感動を与え続けてくれますようにと、心から願っています。

2 件のコメント:

  1. 本当に有り難うございます!
    たくさんの偶然がつながり、曲まで演奏されるとのこと。。感動しています。
    演奏はいつされるのでしょうか?

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  2. ありがとうございます。録音は3月上旬に予定していますが、その後編集作業をして、3月後半頃にはYoutubeにアップします。その時にはまたお知らせいたしますので、皆様どうぞ聴いてください。

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