2014年6月26日木曜日

エラールとプレイエルの違いについての考察 その3

1907年製エラールのアクション
 
1911年製プレイエルのアクション
 
セクションごとにセンターピンが繋がっているプレイエルアクション
 
 
エラールとプレイエルのタッチの違いについて
 
エラールとプレイエルは、19世紀前半から後半にかけてオリジナルアクションに改良を重ね、独自のアクションを完成させました。
そしてその頃には世界中が、もっと機能的でピアニストにとって弾きやすく技術者にとって調整しやすい完成されたアクションに統一されていったにも関わらず、1945年前後まで頑固に自社のアクションを使い続けました。
その結果、今の私たちにとって戦前のエラールやプレイエルのピアノはタッチが独特に感じられ、またピアノ技術者達には調整しにくいアクションが嫌われます。
しかしエラールやプレイエルにとっては、一世紀近くもかけて完成させた自慢のアクション、そこにはこだわりがあり理由があり、それをもっと便利なものが出来たからといって簡単に変えてしまうことはできなかったのでしょう。
 
エラールとプレイエルのタッチは全然違います。
どちらが弾きやすいと感じるかも、ピアニストによって違います。
どちらも個性的なタッチですが、これらは音とも密接に結びついていて、本来のエラールの音はエラールアクションでしか出ない、プレイエルの目指した音はプレイエルアクションでしか出せないのだ、と感じます。
 
では、それぞれのメーカーは何にこだわったのでしょうか。
1834年にエラール社がまとめた文章「PERFECTIONNEMENTS APPORTÉTS DANS LE MÉCANISME DU PIANO PAR LES ÉRARD, DEPUIS L'ORIGINE DE CET INSTRUMENT JUSQU'À L'EXPOSITION DE 1834' 」(エラール社によるピアノアクションの発展、この楽器の始まりから1834年の博覧会まで)の中には、エラールがどんな風に考えてアクションを改良していったかが書かれています。
技術者の間で多くの議論を重ねながら、またピアニストの意見も参考にしながら、発展していった様子です。
フォルテピアノ時代に発明された2種類のアクション「ウィーン式アクション」と「イギリス式アクション」、セバスチャン・エラールはこの両者の良いところをくっつけたアクションを作りたかったのだそうです。
「ウィーン式アクション」は鍵盤にハンマーが直接取り付けられているため、奏者の微妙な意思をハンマーに伝えやすく、正確で美しい音を出すことができます。
「イギリス式アクション」は鍵盤とハンマーの間にアクションを加えることで、安定したタッチと迅速なレペティションを実現することができました。
当時、ピアニストたちの好みも2つに分かれ、多くの議論と試行錯誤の中で、エラールは「イギリス式アクション」の方を好み、発展させ、現在のグランドピアノアクションの原型となる「ダブルエスケープメントアクション」を発明しました。
一方プレイエルは、「ウィーン式アクション」のタッチを好み、最終的にはイギリス式ダブルアクションの形を取りながらも、イギリス式シングルアクションの名残をとどめる形を作りました。
ハンマーと指との間になるべく多くのアクションを介さず、奏者の感情を直接音に伝えたかったのです。
 
両社のアクションには、利点も欠点もあります。
それは両社とも承知の上だったでしょう。その上で妥協し選択してきたのです、自社のこだわりを最優先して。
エラールのこだわりはタッチの安定感と均一さ、そして頑丈さ、ベースがしっかりしていなければ微妙な音楽表現はできないと考えていました。
その複雑なアクションで奏者の細かな感情表現をするのには高度な技術が必要なことを知っていましたが、奏者がそれを乗り越えた時には素晴らしい音が出ることも解っていました。
プレイエルのこだわりは、とにかく奏者の感情を伝えることのできるアクションでなければならないということ、そのためにはアクション内部の抵抗を最小限に抑えることが必要だと考えました。
ハンマーシャンクフレンジを採用せず、セクションごとに繋がった長いセンターピンの調整しにくいアクションをいつまでも使っていたのは、その方が抵抗が少なく軽やかなタッチが得られると考えていたためだと、私は思っています。
 
参考資料:RIFIORIR D'ANTICHI SUONI-Trois siècle de pianos (Alain Roudier/Bruno di Lenna著)
 
続く。

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