2024年11月23日土曜日

1850年製プレイエル ピアニーノ 修復を終えて

 1850年製PLEYEL pianino 1m17 
このピアノを私は、2013年〜2014年に修復、販売しました。
2018年に具合が悪くなり、引き取って修理を行いました。
そしてまた具合が悪くなり、今回3度目の修復を行いました。

具合が悪くなった原因は、ピン板の剥がれでした。
しかし2018年にピアノが戻ってきた時、私はその剥がれに気づくことができませんでした。
その時はまだ見た目で分かるほど明らかではありませんでしたし、ピン板が剥がれることを疑いもしませんでした。
しかし今思えば、その時にもう兆候は確かにありました。
あの時早期発見できていれば、もう少し軽い手術で済んだはずだ、と悔やまれましたが、自分の能力不足でしたので、仕方がありません。
結局重症になってしまい、ピン板交換に踏み切らざるを得ませんでした。

ピアニーノのピン板交換は初めてでしたので、不安と緊張がありましたが、やるしかない状況で、しかも誰にも助けを求められない、一人で完成させる他に選択肢はありませんでしたので、迷う余地なしでした。
それでも、もっともっと複雑なエラールのピン板を作った後だったので、やればできると思いました。
その結果、時間はかかりましたが無事に完成することができ、感無量です。

しかしながら100点満点だったかと言えば、全くそうではありませんでした。
後になって、ああすれば良かった、こうすればもっとベターだった、と思うことはありました。
またピン板自体は無事に完成できたものの、別の問題の発覚、修正、やり直しを繰り返し、結果的に完璧な仕事とは言えなかったと思っています。
それでも、完成したピアノは想像以上に素晴らしい音色を奏でてくれています。
このピアノの懐の深さには、つくづく感激しました。

この仕事を通して、本当に多くのことを学びました。
完成した後、天使の声にも聴こえる音色を聴いていると、天使が私に色々なことを教えに来てくれたのではないかと思えました。
ピアニーノに、天使さまに、そしてこの仕事を私に任せて下さったお客さまに感謝しています。

もう25年くらい前になりますが、師匠の森田さんがおっしゃっていた「修復は張力との闘いだ。」という言葉が、仕事をしながら何度も思い出されました。
その時はただ聞いていただけで深く考えもしませんでしたが、今になって私は痛いほど実感しています。
ピアノは常に弦を張った状態であるため、本体には持続的に大きな力がかかっています。
長い時が経てば、負担が大きくなり、本体の木の老化や接着剤の劣化なども出てくる中で、本体が歪んだりピン板が剥がれたり、その他の部分も剥がれたり割れたりしてくることがあります。
古いピアノを修復する時、そのピアノの年齢、ピアノの体力を考えて、弦の張力を調整しなければなりません。
オリジナルの状態に戻すのではダメで、製造時の若い時より負担を少なくしてあげなければ、高齢のピアノが長生きできません。
ではどのくらい負担を減らすか、というのが難しい問題で、あまりに張力を落としてしまえば音量が出なくなるし、少ししか落とさなければ負担を軽くできません。
結果はすぐには出ないものですし、ピアノ修復とは本当に難しいものです。
ピアノの年齢にもより、個別の老化具合にもより、マニュアルはありませんので、ピアノの体力を見極めるのは、修復師の経験に基づいて行うしかありません。

このピアニーノについては、今回で3回目の修復ですので、1回目にオリジナルより張力を少し落とし(この時の落とし方が足りなかったと今では思っています)、2回目にもう少し落とし、そしてより慎重になった3回目にもまた更に張力を落としました。
つまり、現在は製造時に比べてかなり細い弦を張ってあります。

この私の修復は、オリジナルの復元ではなく、年齢を重ねてきて今生きているピアノの体力に合わせた修復です。
ピアノが現役の楽器として機能できることを目的としています。
それでもそれは、改造ではなく、極力オリジナルの設計を尊重しながら今のピアノの体力に合わせてこのピアノが更に生きて歌っていけるようにとの、改良なのです。
このような細かいことを言われても普通は興味がないと思いますが、これが修復者の私にとっては大切なことで、自分がどのような修復を目指したいのかをはっきりと意識できたことは、今回の仕事の大きな収穫でした。

3度目の修復を経て、174歳のピアノは生まれ変わりました。
魂は1850年からずっと変わりませんが、歳をとり、経験を重ね、老化して何度も手術を受け、そして再出発していくピアノは、私たちに多くの何かを語りかけています。

修復後の音2
ヘンデル「ラルゴ」+ピン板修復写真


STOP WAR !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

0 件のコメント:

コメントを投稿