1897年製ERARD モデル1 平行弦グランドピアノ2m12
これほど難しい修復を今までやったことはありませんでした。
本当にできるのかな?本当に終わるのかな?と何度も思い不安になりました。
しかしやり始めた仕事ですから、絶対にやり遂げるしかありませんでした。
エラールの平行弦ピアノのピン板交換、それは本当に大変で難しく、頭を使い手を傷め、失敗が許されないストレスが常に付きまといました。
昔のプロの木工職人が作った複雑で精巧なピン板を、私などが完璧に再現できるわけがないのです。
でも、木工のプロに頼むこともできない。
なぜなら、このピン板は独立した部品ではなく、ピアノと組み合わせてあるものですから、常にピアノと合わせながらでなければ作れません。
それに、ピアノ技術者にしか解らない、注意すべき重要なポイントがいくつもあって、それらを考えずに作るわけにはいかないのです。
したがって、木工の専門家ではなく、ピアノ修復師がやるしかありません。
ピン板は、弦を留めるチューニングピンを支える部品ですので、しっかりしていなければ音程を保つことができず、楽器として機能しないことになってしまう、重要な部品です。
このピアノはアンティークですが、飾り物ではなく、持ち主のお客様が音楽を奏でたくて待っていました。
何としても、しっかり使える楽器として甦らせなくてはなりませんでした。
人間、やるしかないと思ったら、やれるものです。
本気になって考え、時間とお金を使い試作品を作って練習し、慎重に何度も確認し、時間をかけて少しずつ進みました。
完璧にできないところもありましたが、重要なポイントだけは失敗しないで最後までやり切ることができました。
そして、ピアノ完成の時が来ました。
長い、長いと思っていても、いつかは終わりが来るものです。
大変だった、といくら言っても言い足りないほど大変でしたが、最後にピアノからもらったご褒美は、素晴らしく美しい音色でした。
あまりにも美しくて、何度もため息が出るほどでした。
下手な私がたどたどしく弾いても、どんどんリードして歌って表現してくれる、生き物のようなピアノになりました。
弾いていると、楽しすぎてやめられません。
苦しかったピン板作りの日々は報われました。
付け加えておくと、最終的に良い音色のピアノになったということは、ピン板をうまく作ったためではありません。
ピン板はあくまでピンを支えるという機能的な役割を担っていて、音色を左右するものではありません。
良い音色、美しい音色、表現力の高さ、それらはピアノが本来持っていた素質であり可能性です。
修復が忠実に行われれば、それらの素質を甦らせることができます。
修復とは、作ることではなく、改良することでもなく、元々持っていたものを引き出すことであり甦らせることです。
このエラールピアノは、素晴らしい素質を持ったピアノでした。
それを知ることができたのは、幸せなことでした。
そして、このピアノ修復を通して、歴史を見ることができました。
1897年というこのピアノが作られた年代は、フランスのピアノ製造の過渡期にあり、まさにこのエラールピアノが、19世紀のピアノの流れを受け継ぐ最後の世代だったようです。
それを私は、音で実感しました。
この後の時代は、価値観がだんだんとモダンピアノに移行していく流れになり、ピアノは別物になっていきます。
1897年の頃、もちろん世界ではとっくにモダンピアノを作って発展させていました。
フランスのプレイエルでさえも、すでに変化し始めていました。
エラールだけは、まだ踏み切れていなかった。
伝統を変えることに、抵抗を感じていたのだと思います。
モダンピアノに変われば得るものもあるけれど、何かを失ってしまう、と考えていたのでしょう。
1900年代に入り、エラールも次第に変わらざるを得なくなり、モダンピアノへと移行していきますが、結局は会社として持ち堪えられなくなり、メーカーはなくなりました。
世界的にはモダンピアノが発展し、良いピアノがたくさん作られました。
それはとても素晴らしいことですが、エラールが危惧したように、失ったものも確かにありました。
そこには何か大切なことが、私はあるように思います。
ピアノがそう教えてくれています。
たくさんのことを、ピアノから学びました。
大きな大きな経験をありがとうございました。
STOP WAR !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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今回の、修復過程の、苦労、読んで、感動しました。
返信削除どんな、音色で、しょうか、
返信削除ありがとうございます。音色はこちらで聴くことができます。https://francepiano.blogspot.com/2023/07/1897_0748793884.html
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