2014年5月27日火曜日

1907年製エラール 修復を終えて

修復前

修復後
 
1907年製エラール、平行弦のグランドピアノ2m12の修復を終え、
素敵なピアノがよみがえったことに感謝、感激しております。
このピアノの修復は、私にとって一つの挑戦でした。
このような大きなピアノを一人(プラス研修生の女の子)で修復できるだろうか、
エラールという個性の強いピアノを立派に仕上げ、エラールらしい音やタッチをよみがえらせることができるだろうか、
不安は色々とありました。
完成した今、私は結果に大変満足しています。
エラールピアノに教わりながら試行錯誤しながら進めてきて、何とか最後までたどり着き、
確かにエラールの個性を感じる音やタッチ、見た目の風格をよみがえらせることができた、と思っております。

修復していて、エラールの偉大さに驚きと感動の連続でした。
一度も修復しなくても良いようにと頑丈に作られたエラールピアノ、
ただ頑丈なのではない、緻密に計算され念には念を入れた設計と、それを神経質に実現した職人達の質の高い仕事。
ピアノを解体し、修理をする中で、いつもいつもそれを感じました。
一つも手を抜くところのない仕事です。
そして、一つ一つの綿密な仕事の積み重ねにより一台のピアノという総合芸術ができあがるわけですが、
神経質な仕事の集まりである結果が神経質な音やタッチにはならない、というところが
不思議であり、きっとそれが魅力のもとなのだろうとも思え、
私はそこに、うまく説明できないけれど何か大切なことを学んだような気がしました。
きっちり+きっちり+きっちり=なぜかきっちりではない

エラール家はスイスの出身、フランスに移住してきて、フランスで生まれ育った子孫がピアノ作りを始めたのですが、
スイス人の物作りの血が緻密な仕事を、フランスで育った芸術的感覚が鮮明さと甘さと深みを備えた音を求めた結果、エラールピアノが出来上がったのではないか。
そして、私が修復した1907年製のピアノはもうエラール家の子孫の仕事ではないのですが、
エラールピアノの性質を着実に受け継いで守り続けているというところも素晴らしいと思いました。

同じフランスピアノでも、プレイエルとエラールは全然違います。
どちらがより素晴らしいというものではなく、どちらも個性的で素晴らしい。
修復していて感じたことは、物作りの考え方から違う、求める音が全然違う、出したいタッチが全く違う、つまりは音楽感も異なっていただろうと思います。

今回の修復では、エラールさんから多くのことを学ばせていただきました。
ピエール・エラールからセバスチャン・エラールへの手紙集を読んだことも、
エラールの精神やその時代の空気に触れることができた素晴らしい体験でした。
それほどまでに真面目に真剣に生きた人々と、こだわりを尽くした仕事は、100年以上もの時を経て私達に多くを語りかけています。

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