2018年10月2日火曜日

1838年製プレイエル ピアニーノ 修復後の考察10

ショパン時代のプレイエルのハンマーフェルト修復について考察されたDI MARIOさんの論文の翻訳を、ご紹介しています。
原文はこちらです:PDF of Pleyel Hammers in the Chopin Era

ここに掲載している文は私の個人的な翻訳文ですので、間違いや下手な翻訳、下手な意訳もあると思います。
それでも参考になればと思いますので、恥ずかしながら敢えて掲載するものですが、英語を読まれる方は、ぜひ原文で読まれることをお勧めします。
また、原文にはハンマーフェルトの写真も載っていますので、ぜひご覧になると理解が一層深まります。


アンリ・パープと、ショパン時代のプレイエルにおけるハンマーの巻き方について彼が貢献したこと
M. DI MARIO, VARESE, 2012年7月(2016年6月改訂)

8. 結論

今日のプレイエルピアノ(そして他のロマン派時代のフランスピアノ)の修復が、モダンピアノの音色により汚されてきたことは疑いない。それは19世紀後期のアメリカの設計をベースに作り上げられてきた考え方に基づいている。モダンピアノや間違った修復を施されたピリオドピアノしか経験したことのないピアニストたちは、善意の修復家たちに対して、絶叫するようなパワーではなくニュアンスや詩的な甘さを設計のベースに考えて作られたヨーロッパのピリオド楽器から、大きすぎるパワーと弾きやすさを引き出すことを求めるだろう。顧客たちは、修復のための費用を、モダンなコンサートホールで演奏するための練習に使う、いわば使役馬として修復ピアノを使う目的のためだと考える。ショパンの生きていた時代に作られたピアノのほとんど、とりわけプレイエルのピアノは、そのような目的には全く不適切である。元々そのように設計されていないのである。

最終結果は、ピアノが本来の製造目的やこの種の楽器で作曲した作曲家が持っていた美学を伝えることができないまま紹介され続けている、ということである。

オリジナルのパープ・プレイエルフェルトは、ピアニッシモのパッセージではソフトでしなやかだという長所があるが、フォルティッシモのパッセージでは平たい音になってしまう。それは、下の層との結合部分が明るい音を出すからである。一般的に利用されている羊毛のモダンフェルトは、この記事に書かれてきたように、フォルティッシモのパッセージでそのような明るさを出すことはできず、ピアノのオリジナルの設計に意図されていたような全体的なダイナミックさの幅を引き出せない。

Wurzenのように伝統的なハンマーフェルトの製造メーカーも含め、モダンフェルトの製造は今日、ピアノをオリジナルの状態に巻き直すために必要なフェルトを製造できないようだ。これまで見てきた特許から読み取れるように、当時のオリジナルのフェルト製造は、繊細な材料を使っていたという点でも、織物や衣類の製造と同様より儲かる材料を使うようになった今日とは、大きく違っていた。

我々には、目下のところ3つの選択肢が残されている。

最初の選択肢は、シカや大ジカの革であるが、確信を持って使える材料であり、ショパンの生きていた時代のアップライトピアニーノに使われ続けたものである。残念なことに、時間が経つと革はより硬くなり輝きを増してきて、ロマン派時代のパープの特許のフェルトの音色を十分に出すことはできない。

2番目の選択肢は、現在製造されているハンマーフェルトであるが、ウサギまたはノウサギの毛から作られるものである。著者は、今でもウサギやノウサギの繊維を使って帽子を製造しているBorsalino帽子工場からいくつかの円錐状のフェルトを受け取った。その帽子のフェルトは似たような音色を出すのだが、オリジナルフェルトよりも衝撃的な音色が出るために、明暗の幅が少なくダイナミックさにおいて異なる結果となる。

3番目の選択肢は、今使われているモダンのバスダンパーフェルトや他の似たような羊毛フェルトである。モダンフェルトを使うときの問題は主に、しばしば繊維の目が粗くて硬いので、(ドルジュの記事で述べてきたように)密度が高い時には「こわばった」音になり、より適切な低い密度の時にはフォルティッシモのパッセージで音が鈍くなってしまうことである。

それでもやはり、一つの適切な答えに到達する。修復家は、ピアニッシモからメゾフォルテの間が多様である、柔らかく甘い音色を目指さなければならない。これはプレイエルピアノにとってとても重要なことだ。パワーは、表現力と小さな音量で歌える能力の犠牲になるだろうが、それはショパンが生きていた時代の製造家やピアニストにとって根本的な問題であり、ショパンの音楽を正確に表現するためには必要不可欠のことである。

それゆえ、音量を増大し輝かしいタッチを作ることで楽器の音楽的価値を最大限に引き出そうとする努力である衝撃的で輝かしいハンマーを用いた修復を避けることは大変重要である。私は主張したい。目指すべき最高点は、その強さではなくその弱さである。
(終わり)

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