2018年9月26日水曜日

1838年製プレイエル ピアニーノ 修復後の考察4

ショパン時代のプレイエルのハンマーフェルト修復について考察されたDI MARIOさんの論文の翻訳を、ご紹介しています。
原文はこちらです:PDF of Pleyel Hammers in the Chopin Era

ここに掲載している文は私の個人的な翻訳文ですので、間違いや下手な翻訳、下手な意訳もあると思います。
それでも参考になればと思いますので、恥ずかしながら敢えて掲載するものですが、英語を読まれる方は、ぜひ原文で読まれることをお勧めします。
また、原文にはハンマーフェルトの写真も載っていますので、ぜひご覧になると理解が一層深まります。


アンリ・パープと、ショパン時代のプレイエルにおけるハンマーの巻き方について彼が貢献したこと
M. DI MARIO, VARESE, 2012年7月(2016年6月改訂)

2. ピアノハンマーの外側の巻きを革からフェルトに替えたジャン・アンリ・パープの功績(2)

挿入記事:Revue scientifique et industrielle、1844年、Volume17
「パープ氏は、ハンマーをフェルトで巻く方法についての特許をフランスとイギリスで取得した。しかし、イギリスの製造家たちがこの方法を使用するために特許料を誠実に支払ったのに対し、フランスの製造家たちは、パープが用いた緑色のフェルトではなく白色のイギリスフェルトを使用するという口実で、ためらうことなく特許料を支払わずにこの方法を採用した。最初の訴訟は遅々とした中身の薄い内容であり、フランスの裁判所の判決が工場主にかけた圧力が小さかったため、パープ氏がこの重要な発明の専売という正当な権利を行使するのを妨げるものであった。フランスの製造家たちは、緑色のフェルトを使わないということで罰せられることなく彼と闘ったのだが、それはパープ氏が彼らに緑色のフェルトに含まれる有毒の性質が虫害からフェルトを守るということを教えなかったためである。ピアノアクションの中の他の部品に使われた繊維についても同様であった。
今日ではヨーロッパ全土で、ハンマーの巻きが革からフェルトに替えられている。モダンピアノの美しい音色や、良い楽器が欠点を持つことなく安定しているというクオリティーの高さは、彼のおかげである。私はやっと否定されるのを恐れずに、この改良はピアノ製造における新しい時代の始まりであり、根本的な要素の一つであり続けるだろうと、付け加えることができるのだ。」

パープにとっては不幸なことに、当時の製造界は彼の特許を合法的に尊重せず、作り方をわずかに変えた灰色でなく白色のイギリス式のフェルトを使用することで特許を回避した。それはおそらく良質の羊毛の繊維であった。

モンタルは、初期のフォルテピアノのハンマーには革が巻かれ、続いて灰色または緑色のフェルトで巻かれたと述べている。そしてそれ以来、羊毛のフェルトは全世界的に使われるようになったのだが、1800年代のフェルトのクオリティーは今日の工業製品のそれとは全く違っていたことは確かである。

挿入記事:Montal、1865年改訂、L’art d’accorder soi-même son piano、142ページ
「ハンマーを巻くのには特別な技術が必要である。そしてそれこそが打弦の際に楽器の音色のクオリティーを決めるものなのである。昔はハンマーを黄色いシカ革または灰色か緑色のフェルトで巻いていた。そのフェルトはノウサギかウサギの毛から作られ、黄色や緑色をつけたものだった。今日ではすべてのハンマーが細かい羊毛で巻かれており、音色のクオリティーと楽器の保持の点で昔のハンマーの巻き方に比べてかなり高品質のものとなった。シカ革は丈夫であったが、良質のものを探すのに苦労があり、またピアノの音を均一にするのが難しくしばしば音のクオリティーを落とした。ノウサギやウサギの毛のフェルトでは、音のクオリティーの高さを得られたが、音に伸びがないため、使われなくなった。」

モンタルは、「ウサギのフェルト」の音の伸びが短いことについて述べており、薄っぺらく減衰が早いためにこのフェルトが使われなくなったと言っている。この最後の視点が修復家にとって大変重要である。ウサギのフェルトを使ったピアノハンマーの音が短い間に減衰していたことが、確かに強調されているからである。ピアノの寿命は15年だと考えられていた時代があるが、それは、ピアノの使用がその消耗のために何年か後にはできなくなり、おそらく10年かそこらで新しいフェルトまたは革で巻き替えられたということを意味している。プレイエルの常連でお金持ちの顧客にとっては、新しいピアノのハンマーを使い古すことはおそらくそれほど残念なことでもなかっただろう。なぜなら、さらに改良され本質的に異なる新しいモデルが何年かごとに発売されたからである。

この耐久性の欠如について、S.Wolfendenも彼の論文の中で述べている。
「当時、大陸ではウサギの毛から作ったと言われるハンマーフェルトが使われており、真っ白ではなく、緩くてざらざらのものだった。このフェルトで巻かれたハンマーから出る音は甘く心地の良いものだったが、ウサギの毛の消耗という観点から、使用の継続をやめて久しいようだ。」(注3)

パープのフェルトは1835年にさらに改良され、ビクーニャとカシミヤの繊維または細かい羊毛を加えることで、より堅く圧縮されたものとなった。生産過程もさらに改良され、一枚のフェルトが徐々に薄くなっているテーパー状のシートから一片一片を切り出せるようにした。やがてフェルトは1層のシンプルなものになっていった。エラールピアノがバスとテノールの音域については2層のフェルトを使い続けたのに対し、パープピアノとプレイエルピアノは、1層にし始めた。

挿入:1835年パープの特許のオリジナル改訂文
「私は今日、ハンマーの巻き方について改良を追加する。この改良により、さらなる丈夫さと音色のクオリティーの向上が得られる。フェルトの製作には、カシミヤとビクーニャなどを使い、厚さを徐々に薄くすることが必要だ。このフェルトによりさらなる弾力性と丈夫さを得ることができ、結果的にとても使い勝手がよくなった。 1835年4月24日、パリ」



(注3)P.149 S Wolfenden, A Treatise on the Art of Pianoforte Construction, 1916年

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