2020年7月12日日曜日

夏の風景6


雄鶏のフクと別れなければならない日が来ました。
まだ1年も一緒にいなかったのに、悲しい別れでした。
あの元気な「コケコッコー!」も、もう聞けなくなりました。

ある日、近所の別荘の方が来て、雄鶏がうるさいから何とかして欲しい、と言われました。
近所と言ってもかなり距離はありますし、ここは猪も来るような田舎ですから、雄鶏の声がそんなに迷惑になるとは思っていませんでした。
しかし、迷惑だと言われれば仕方がありません。
夫はすぐに決断し、翌日を待たずにその日のうちに処分することに決めましたが、さてどうしたら良いものか、私達夫婦には鶏を絞め殺す技術もなければその気持ちもありません。
誰かもらってくれる方がいるだろうか、卵を産む雌鳥なら喜ばれるけれど雄鳥は歓迎されないだろう、保健所に連絡すべきか、役所に相談すべきか・・・。
結局、相談に乗ってくれた方がもらい手を探してくれ、その日のうちにフクはもらわれていきました。

とても立派な良い鶏だったのに、可愛がっていたのに、一生懸命に雌たちを守っていたのに、フクは何も悪くないのに、と悲しい気持ちでした。
フクについて以前書いた記事:https://francepiano.blogspot.com/2020/06/blog-post_18.html

上の写真は、別れる前にフクに、「ごめんね、フクは何も悪くないよ。」と声をかけた時の顔です。
何かが起こると感じ、緊張した顔でした。

いくら田舎に暮らしているからとは言え、近所があり迷惑をかけてはいけないことは私達も承知しています。
もしかしてコケコッコーがうるさいと言われることがあるかもしれないことも、そうなれば対策を考えなければいけないということも、覚悟はしていました。
そのこと自体は、悲しいとは言え仕方のないことと思えました。

しかし今回のことでとても悔しい思いが残ったのは、一連の経緯と人々の気持ちでした。
朝3時半から鳴く鶏の声が気になるなら、そのことを素直に私たちに伝えて話し合って欲しかった。
そうではなく、「苦情」「クレーム」という形で非難されたこと。
そして、鶏の声を「騒音」「迷惑行為」と捉えられたこと。
夫がフクを処分した後、その方達は「騒音」が解決されたことを喜んだけれど、鶏がどうなったか、私達がどんなに悲しい思いで別れたか、ということについては、少しも心を寄せなかったこと。

人間も鶏も生きています。
昔はどの家でも庭先養鶏をして、卵からタンパク質をいただいていました。
東京でも、どの家の鶏が一番上手に鳴くか、と近所で競い合っていたと聞きました。
それも江戸時代とかではなく、つい何十年か前の話です。
そのような大らかな気持ちで人々が生きる時代は消え去り、今は、自分の都合を優先し、何かあればクレーム、裁判、となる寂しい時代になってしまいました。
そして、都会の人が、人々が昔ながらに大らかに暮らしている田舎にまでも都会の論理を持ち込むのは、何か腑に落ちない気持ちです。

自然を愛する気持ち、尊敬する気持ち、謙虚に学ぶ気持ちを、私たち愚かな人間に教えてくれるのが、田舎の自然であり動物たちであると思います。
近所の子供たちや、別荘に遊びに来る子供たちがたくさん、鶏を見に来ました。
鶏を見たり触ったりしたことのない子供たち、いつも食べている卵がどこから来るのかを学ぶ子供たち、みんな素直に喜んでいきました。
大人になるにつれ、美しい心や素直な感情が失われ、そして自分を守るためにもっともらしい論理で武装して、勝ち負けを基準に生きていくようになることが、果たして成長と言えるでしょうか。

今回一つだけ救いだったことは、フクを殺さずに済んだことです。
しかし、いつも鳴いていたフクのコケコッコーが聞こえなくなり、とても寂しい毎日です。
雌鶏たちも、心なしかどこか寂しそうに見えます。
フク、元気でね。


追記:3週間後、夫が偶然フクをもらってくれた方に会ったら、丸々太ってとても元気にしているよ、と言ってくれたそうです。良い人にもらわれて本当に良かったです。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。昨年3月訪問させていただきました林です。

    広々とした北軽井沢の森の中でも、こんなことがあるのですね。。。鶏の鳴き声が遠くまで聞こえるのでしょうが、どうしてもふに落ちないですね。
    別荘の方は時々北軽井沢にいらっしゃる方なのでしょうか? 朝の3時半、都会だと、その後眠りに入る方もいるのかもしれません。私も、先週、どうしても寝付けず、時計を見たら3時半と言う時がありました。でも、みんながみんなそうでもないし、野鳥が鳴いてることもあると思うし、迷惑だとクレームをつける前に相談することができないのかと、本当に思います。

    3·11の時、そして今回のコロナで、人々の意識もちょっと変わって、世の中の世知辛さみたいなものが少し緩和されることを願ったりしました。でも、なかなかそうはいかないのですね。



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  2. コメントありがとうございます。生活スタイルは人それぞれなので、時に合わないことがあるのは仕方がないですが、みんなでちょっとずつ我慢して仲良くやっていきたいものですね。

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