2017年11月10日金曜日

天使が来てくれました







我が家に一週間だけ、天使が来てくれました。
名前は百合ちゃん。
夫と犬のキクが散歩をしていたら、急にキクの方へ突進してきて、その後ずっと付いてきて離れないので仕方なくうちへ連れてきました。
どうやらキクのことをお母さんと思ったらしいのです。
野生の猫なのに犬にも人にも警戒心がなく、初めて会った時に私にも抱きついてきたので、あまりの人なつっこさにびっくりしました。
生まれたばかりかな、と思われるほど小さくて、そして眼の病気で両目ともただれてひどい状態でした。
可哀想でしたが家に入れるわけにもいかず、最初の晩は外で寝てもらいました。
時々ご飯くらいはあげられるけれどどうにか外で生きていってね、としか言いようがなかったのです。
仔猫は一晩中鳴き、私たちに訴え続けました。
翌朝には声が枯れて、ダミ声になりました。
朝になっても待ち続けている仔猫を可哀想に思った夫が、せめて眼だけでも治してあげられたら、と動物病院へ連れて行きました。
そしてわかったことは、仔猫は生後3ヶ月経っている雌で、生まれてすぐに母親とはぐれた(または捨てられた)ので免疫がないため、猫風邪にかかって抵抗力がなく眼病になり、両目が見えない、そして極度の栄養失調。
今後は、もし人間の家の中で家族と共に過ごせるなら生きていけるが、外では生きてはいけないとのこと。
そう言われたら、もう外には置けません。
家族会議を開いて、うちで飼うことになり、食べ物やトイレの砂など必要なものを買い揃えました。
最初に家の中に入った時、犬のキクと追っかけっこをして遊びまわり、とっても楽しそうでした。
キクも、普段は猫が好きではないのですが、この仔猫のことは嫌がるどころか大好きで、遊びたくてたまらない様子でした。
しかし、3ヶ月間独りっきりで、ろくに食べるものも得られずにかろうじて生きてきた仔猫です。
やはり弱っていて、食べ物をあげても食べず、眠ってばかりいて、死んでしまいそうになりました。
夫が一晩中看病をして、何とか食べ物を摂り、命をつなぎました。
その晩、季節外れの百合が一輪、寒い庭で花を開き、仔猫は百合ちゃんと名付けられました。

その後は徐々に回復してくれると思い、私も看病をしました。
百合ちゃんも必死で食べ、生きようとしました。
温めないといけないので、電気シーツを敷いてあげたら、気持ちよさそうにすやすやと眠りました。
だんだんと弱ってトイレのこともできなくなりましたが、スープを与えると飲んでくれたので、できる限り飲ませました。
力のない痩せ切った体でも、一生懸命息をし、食べようとしていた姿は、感動的でした。
しかし、ある朝百合ちゃんは死んでしまいました。
安らかに眠っているような顔で、美しい姿でした。
その晩には見事な満月が出て、死んでしまった百合ちゃんを照らしました。
私は、百合ちゃんはかぐや姫だったのだろうか、と思いました。
満月に照らされ、月へ帰って行ったのではないか。
それほど彼女は美しく、愛らしく、夢のようでした。

翌日、夫がお墓を作ってくれました。
百合ちゃんはお墓に入りました。

たった一週間足らずの話です。
でも彼女が私たちに残した印象は、とても大きかったのです。
私も、短い間でしたが、抱っこして食べ物を与え、トイレの世話をし、一生懸命温め、仕事場でも一緒に過ごして一緒にモーツァルトを聴き、そして弱っていく最期を看取った中で、彼女から感じたことがありました。
百合は、生まれてすぐ母親と離れ、3ヶ月間独りで過酷な時を過ごし、栄養失調になり眼も見えなくなり、ほとんどもう死にそうだった時に、最後に一つだけ神様にお願いをしたのではないか。
それは、家族が欲しい、ということ。
そしてそれは叶えられ、私たちのところに来ました。
お姉ちゃんのキクに遊んでもらい、お父さん、お母さん、おばあちゃんに抱っこされ、食べ物と温かい寝床をもらい、看病をしてもらった。
その幸せな時を過ごし満足して、彼女は逝ってしまいました。
私たちにとっては短すぎる時間でした。この先家族として一緒に暮らそうと思っていたのに。
でも彼女はあまりに無欲でした。
神様にお願いしたたった一つの願いが叶えられ、家族ができ暖かい家の中で眠ることができた、食べ物をもらい名前をもらった、それだけで十分幸せだったというように、彼女は満足そうな安らかな顔で旅立ちました。

あまりにも美しかった百合ちゃんの物語から、私たち夫婦は強い印象を受け、悲しみ、また勇気をもらい、学びました。
たった一週間足らずです。野生の猫が紛れ込んできただけのことです。
でもそれだけとは思えない。ただの猫だったとは思えない。あまりに可愛く美しかった。
たぶん天使だったのだと思っています。
百合ちゃん、我が家に来てくれてありがとう。

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